青い空はポケットの中に(はてな版)

ドラえもん、藤子不二雄、音楽、映画、アニメなど気ままに。

”ドラえもんらしさ”の先にあるもの――『映画ドラえもん のび太の月面探査記』

 『映画ドラえもん のび太の月面探査記』(監督:八鍬新之介、2019年3月1日公開)。脚本は直木賞作家で『ドラえもん』を始めとした藤子・F・不二雄作品からの影響を公言している辻村深月氏。オリジナルストーリーの映画ドラえもんはまず本作を基準にしたいと思わせる力作であった。原作はてんとう虫コミックス23巻「異説クラブメンバーズバッジ」。原作の短編がベースであれば、『のび太の恐竜』のように後日談を付加する展開にしてもよさそうだが、本作はそうではなく、原作ではわずか10ページ前後という短編のフォーマットを守りながら約2時間の映画にまとめている。原作からの本歌取りを形にしつつ、風呂敷を広げすぎないこのバランス感覚は流石だ。

 物語は上記短編を核とし、「月の裏に文明がある」という異説を唱えたのび太たちが月の裏に「ウサギ王国」という一種のイマジナリー・ワールドを築くところから始まる。そこに、不思議な転校生ルカが登場し実は……と展開していく。映画/大長編ドラえもんで転校生が登場するのはこれが初めてだが*1、役割とすれば美夜子(『のび太の魔界大冒険』)やリルル(『のび太と鉄人兵団)が近い。

 さて、非日常世界を舞台とする映画/大長編ドラえもんにおいて、嘘をもっともらしく描くためにはそれなりのテクニックが必要である。(主に初期の)映画/大長編ドラえもんでは出木杉がその役割を担った*2。落語でいうマクラに相当する。落語を好んだという藤子・F・不二雄先生らしく、噺家が羽織を脱ぐ瞬間の没入感、言い換えれば荒唐無稽な物語を日常の半歩先に接続するメディウムとしての役割がそこにあった。「ヘビー・スモーカーズ・フォレスト」や「魔法・科学同根説」を信じていた読者もいるのではないか。本作ではドラえもんが主にその役割を担っている。いささか急ぎ足ではあったが、近年の映画ドラえもんに最も足りない要素の一つであっただけに、こうしたロジカルな肉付けを怠らなかっただけでも一見の価値がある。

 また、日常が徐々にS・F(すこし・ふしぎ)な世界に侵食されていく序盤*3、世界を創造し、冒険する楽しさを描いた中盤*4など、映画/大長編ドラえもんの基本を踏まえたストーリーテリングにも抜かりはない。

 本作のハイライトは恐らく、静謐な、しかし覚悟を秘めた悲壮感を湛えている決戦前夜のシーンだろう*5。映画公開前に発表された6枚のポスターのビジュアル・イメージ*6からもその力の入れようが見て取れる。ポスターに記された台詞がやや広告的なキャッチコピー*7に過ぎ、藤子テイストをあまり感じられないのは残念ではあるが。

 ところで、優れた子ども向け作品は、容赦のない子どもの突き放し、あるいは世界の残酷さを(ぼかしながらも)子どもに直視させる要素を含んでいる*8。それはメインターゲットの子どもを置いてきぼりにした難解な/シリアスな展開にすればよいというものではない。児童文学を始め、優れた子ども向け作品はジュブナイル冒険譚としての体裁を保ちながら、子どもに一歩先へ踏み出す勇気、そして知性をもたらしてくれる。映画/大長編ドラえもんでは、一例としてのび太たちの生命の危機*9や(地球規模の)カタストロフィの暗示*10で表現されていた。本作にはそれが足りなかったのではないか。すなわち、冒険世界の箱庭的描写、意地悪な言い方をすれば「90年代後半〜2000年代前半の映画ドラえもん」レベルの作劇に留まってしまったように思う。原作の短編「異説クラブメンバーズバッジ」では、のび太たちが創った地底国の存在が外部に漏れ、マスコミや不動産会社が押し寄せるという展開が描かれた。月面世界やカグヤ星と日常世界との邂逅をもう少し見てみたかった気もする*11

 上記に関連して、ある作品のファンを自負するクリエイターが作ったリメイク/リブート作品は、ウェルメイドには仕上がるものの、果たして観客の想像を超えた体験を提供できているであろうかという問題がある*12。古参ファンの不興を買おうとも、あっと驚くような、しかし正しく『ドラえもん』である映画を観たいと思うのは贅沢な願いであろうか。「ドラえもんの通った後は、もうペンペン草も生えないというくらいにあのジャンルを徹底的に書き尽くしてみたい」とは藤子・F・不二雄先生の言であるが、まだペンペン草どころかドラえもんの周りにはまだ花が咲く余地があるはずだ。冒頭で「オリジナルストーリーの映画ドラはまず本作を基準に」と述べたのは、本作を再スタートラインに、リニューアル後のドラえもんわさドラ)らしい映画を作って欲しいというささやかな願いを込めてのことである*13。 

 しかし見どころは他にもある。カグヤ星のディストピア描写には唸ったし、エスパルの出自、そして終盤にルカが下した決断は、『竹取物語』(または羽衣伝説)に対する現代からのアンサーのように思える。生命倫理にまで踏み込んだ物語作家としての辻村深月氏の矜持をここに見る。「異説クラブメンバーズバッジ」は、彼ら(エスパル)にとっての羽衣でもある。また、ドラえもんがボスキャラクターであるディアボロに放った台詞(「同じ機械として恥ずかしい!」。この台詞はアフレコの際に急遽追加されたという。)は、来るべきAI時代に射程を広げている*14

 全体的には、(藤子・F・不二雄先生没後を含めた)映画ドラえもん史を俯瞰した上での丁寧なセルフリメイクといった趣の一作に仕上がっている。さすがは辻村深月氏、「異説クラブメンバーズバッジ」を二転三転させながらここまで使いこなせる作家はそういないだろう。懐古に終始せず、あえて今っぽくしたキャラクター造形(ルカの非・藤子キャラ的な目、髪型、ファッション)もアニメーションの特質を生かした表現だ。彼らが異世界の存在であることを観客に強く印象づけることに成功している。

 トロフィー・ガールとしてのヒロイン(本作ではルナ)、あるいはしずかの役割*15、また敵キャラクターとしてのロボット・AIの扱いなど他に言いたいことがないわけではないが、次作以降の課題として措いておくことにする。

 最後に。あっさりとした、そして必要以上に余韻を残し過ぎないラストは好ましい。立つ鳥跡を濁さず(落語のサゲのように)。大冒険を終えたのび太たちは、翌日からは何事もなかったかのように学校に通うのだ。裏山の片隅に埋められたバッジとマイクはさながらタイムカプセルのようである。タイムカプセルは思い出を封印する装置でもある。だが、得てしてそれは掘り返されることなく、思い出を思い出のままに留めておいてくれる。

 


「映画ドラえもん のび太の月面探査記」予告2【2019年3月1日(金)公開】

 

 

*1:短編ではてんとう虫コミックス23巻「ぼくよりダメなやつがきた」の多目くんに一例。「異説クラブメンバーズバッジ」と同じ収録巻なのは偶然か?

*2:ex.『のび太の大魔境』、『のび太の魔界大冒険』

*3:ex. 『のび太の魔界大冒険』、『のび太と夢幻三剣士』

*4:ex.『のび太の海底鬼岩城』、『のび太の日本誕生

*5:cf. 『のび太の鉄人兵団』

*6:

スネ夫「大人のフリが上手な人が大人なだけだよ」 ポスターがエモい - withnews(ウィズニュース)

*7:cf.「ドラ泣き」。ただし、私は『STAND BY ME ドラえもん』は作品としてそれなりに評価している。拙ブログ2014.8.31付の記事を参照。

肥大化した観客の思い出と対峙する 『STAND BY ME ドラえもん』 - 青い空はポケットの中に(はてな版)

*8:個人的な好みで言えば、森絵都作品(『カラフル』他)、那須正幹作品(『ズッコケ三人組』シリーズはあまりに有名か)。『ドラえもん』の中編では「ゆうれい城へ引っ越し」(てんとう虫コミックス12巻)のパパとママの会話などに一例。

*9:ex.『のび太の宇宙小戦争』

*10:ex.『のび太と雲の王国』

*11:オープニングに登場した日本の月面探査機が特にストーリーに関わることがなかったのは少しもったいなかった。

*12:ex. 『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』他

*13:のび太のひみつ道具博物館』、『のび太の宇宙英雄記』のように子ども向け作品という原点に立ち返る、あるいは『新・のび太の日本誕生』(個人的にはこれがリニューアル後の映画ドラえもんの最高傑作)のように原作を乗り越えたリメイク作品を創り上げるという方法もその一つだろう。

*14:cf.『のび太とブリキの迷宮』

*15:ex. 『のび太の宝島』。荻上チキ氏が自身のラジオ番組で言及。

【音声配信】ドドドドドド、ドラえもんの映画を観に行ったら・・・~大きなお友達!?荻上チキ▼2018年3月5日(月)放送分(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」)

2017年ベストアルバム

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01. Communions - Blue
02. Noel Gallagher's High Flying Birds - Who Built The Moon?
03. INHEAVEN - INHEAVEN
04. Alvvays - Antisocialites
05. Calvin Harris - Funk Wav Bounces Vol.1
06. Yumi Zouma - Willowbank
07. Japanese Breakfast - Soft Sounds From Another Planet
08. Kasabian - For Crying Out Loud
09. Slowdive - Slowdive
10. Childhood - Universal High

次点① Arcade Fire - Everything Now
次点② The xx - I See You
次点③ Burglary Years - 100 Roses

 個人的には、UK・カナダを中心としたロックの復権と90'sシューゲイザー勢の再始動が嬉しかった。それでは良いお年を。

2015年ベストアルバム

 今年は5年ぶりにベストアルバムを選んでみることにした。ここ数年、米音楽サイト「Pitchfork」の台頭を背景に、豊かな音楽的知見を下敷きに芸術性と同時代性を加味したピッチフォーク的価値観*1からの影響力を排除することはもはや不可能な一方、私自身がビートルズを入り口に音楽を聴き始めたことから、マスに刺さる音楽も相変わらず好きであり、両者を折衷して選定している。基本的には2015年にリリースされた洋楽アルバムのうち、私が聴いた作品の中から独断と偏見で選んだに過ぎないが、UKギター・ロックとUSインディー勢が中心の顔ぶれとなった。なお、1位〜10位は寸評付き、11位〜20位は順位付けのみ、21位以降は順不同(アルファベット順)に列挙した。

1位〜10位

1. Tame Impala - Currents
 オーストラリアのサイケデリック・ロック・ユニット、テーム・インパラの3rdアルバムとなる今作はギター・サウンドを抑制し、シンセ主体のメロウなサイケデリック・ポップに仕上がっている。ポップであるということはマスに寄り添うということでもあり、本作が決して好事家だけの作品に留まらないことを意味している。そもそも、彼らはサイケ期のビートルズに範をとったとされるサウンドが持ち味であり、ビートルズが芸術性と大衆性を兼ね備えた稀有なバンドであったことからも、本作のようなアルバムが生まれたことは歴史的必然とさえ言える。そのような点でも2015年を代表する1枚である。 #2「Nangs」は2分弱の繋ぎ的な小曲ながら、シンセのうねりがマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン的な陶酔感を喚起させる。

カレンツ

カレンツ

 


Tame Impala - Let It Happen


2. Noel Gallagher’s High Flying Birds - Chasing Yesterday
 
ノエル・ギャラガーのソロ2ndアルバム。前作では今後の音楽活動を一人で背負っていくことへの気負いが感じられたが、今作ではそのような悲壮感は感じられない。何より全10曲、ノエルのソングライターとしての魅力が余すところなく収められている。前作では鳴りを潜めていたギター・ソロも復活し、本来のギタリストとしての領分も存分に発揮されているのもいい。#4「Lock All The Doors」のように、オアシスのデビュー前に書かれた、それも弟リアムに似つかわしい楽曲*2を何の衒いもなくアルバムに組み込んでいることからも、オアシスとの決別が感じられる作品になっている。#1「Riverman」は間違いなくノエル・ヴォーカル曲の傑作の一つ。

チェイシング・イエスタデイ(初回生産限定盤)

チェイシング・イエスタデイ(初回生産限定盤)

 


Noel Gallagher’s High Flying Birds - Riverman

 

3. Beach House - Depression Cherry
 
アメリカのドリーム・ポップ・バンド、ビーチ・ハウスの5thアルバム。今作はよしもとばなな『キッチン』からインスピレーションを得ているという。全9曲・45分、心地良いノイズの海をたゆたうような心地にさせてくれる。中でも白眉は#2「Sparks」だろう。世間にドリーム・ポップと呼ばれるジャンルを鳴らすアーティストは数あれど、コクトー・ツインズ、スロウダイヴに連なる系譜の正統な後継者に最も相応しいバンドではないか。なお、同年にリリースされた姉妹作『Thank You Lucky Stars』も本作に勝るとも劣らない作品である。

ディプレッション・チェリー

ディプレッション・チェリー

 


Beach House - Sparks


4. Kendrick Lamar - To Pimp A Butterfly
 
残念ながらヒップホップの素養に乏しいため、ケンドリック・ラマーの最新作を上位に挙げるのは些かミーハー的な振る舞いではあるのだが、人種差別と正面から向き合ったこのアルバムに敬意を表する意味でもこの位置にした。とはいえ、ジャズ、ファンクといった黒人音楽の系譜が大胆なサンプリングという形で提示されているので、ヒップホップ/ラップに耳馴染みがなくても十分過ぎるほど聴き通せるのがまた偉大というべきだろう。アイズレー・ブラザーズをサンプリングした「i」は2015年に最も繰り返し聴いた曲の一つとなった。下記のYouTubeはシングル・ヴァージョンだが、アルバム・ヴァージョンの方が断然良い。なお、ヒップホップと新たな公民権運動の関係について音楽評論家の高橋芳朗氏が解説したTBSラジオ荻上チキ・Session-22』の2015年9月17日放送分*3は一聴の価値あり。

トゥ・ピンプ・ア・バタフライ

トゥ・ピンプ・ア・バタフライ

  • アーティスト: ケンドリック・ラマー,ジェイムズ・フォンテレロイ,ラプソディー,ジョージ・クリントン,ビラル,ロナルド・アイズレー,K.ダックワーズ,D.パーキンス,マシュー・サミュエルズ,T.マーティン,C.スミス
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
  • 発売日: 2015/05/20
  • メディア: CD
  • この商品を含むブログを見る
 


Kendrick Lamar - i (Official Video)


5. Blur - The Magic Whip
 
大好きなブラーがニュー・アルバムを出す、それだけでも嬉しいニュースだが、そのきっかけが大風呂敷を広げた挙句中止となった本邦の某ロックフェスであった*4と聞けば、なんとも皮肉な因果であると思わざるを得ない。その空いたスケジュールを利用して香港でレコーディングされた本作は、アートワークや#3「Go Out」のMV*5に見られるように、デーモン・アルバーンの東洋趣味が感じられるアルバムになっている。そしてグレアム・コクソン独特のギター・カッティング、これが聴きたかった! #1「Lonesome Street」はかつて犬猿の仲だった元オアシスのリアム・ギャラガーもお気に入りの1曲に挙げている(皮肉屋の兄ノエルとは違い、彼の性格からして素直な褒め言葉と受け取って差し支えないだろう)。

ザ・マジック・ウィップ

ザ・マジック・ウィップ

 


Blur - Lonesome Street (Official Video)

 

6. Jamie xx - In Colour
 イギリスのロック・バンド、ザ・エックス・エックスのフロントマンがジェイミー・エックス・エックス名義でリリースしたソロ・アルバム。ザ・エックス・エックスの1st『The xx』(2009)は音数を抑えたミニマルな作りながら通して聴けるポップネスも備えていて、私も2009年のトップ10アルバムに挙げた*6。そして今作は昨今のトレンドであるEDM路線に接近しつつ同時代性と音楽的評価の両方を獲得しており、しっとりとした大人のアルバムとしても聴けるようになっている。

イン・カラー

イン・カラー

 


Jamie xx - Gosh (Official Music Video)

 
7. The Go! Team - The Scene Between
 インディー・ロックを下敷きに、カラフル、多国籍、ミクスチャーといった言葉で形容される、まさしくごった煮なサウンドを展開するイギリスのロック・ユニットの4thアルバム。メンバーのイアン・パートンはももいろクローバーZの「労働讃歌」を作曲したことでも知られる。これまでにリリースされたすべてのアルバムを愛聴しているが、特に今作は歌モノ重視に振った点でも長く付き合えるアルバムになるだろう。

THE SCENE BETWEEN

THE SCENE BETWEEN

 


The Go! Team - What D'You Say?


8. Deerhunter -  Fading Frontier
 
アメリカのロック・バンド、ディアハンターの最新アルバム。かつてはシューゲイザーの一派と見なされたこともあった。彼らのディスコグラフィの中でもとりわけ『Halcyon Digest』(2010)は掛け値なしの名盤といえるアルバムだが、今作も2015年のトレンドよろしくシンセ主体のメロウなドリーム・ポップに仕上がっており、こちらも負けず劣らず美しい。

フェイディング・フロンティア

フェイディング・フロンティア


Deerhunter - Snakeskin

 

9. Albert Hammond Jr. - Momentary Masters
 ザ・ストロークスのギタリストであるアルバート・ハモンド・ジュニアのソロ3rdアルバム。エッジの効いたミュート気味のギター・サウンドといい、ストロークスの近作や他のメンバーのどのソロ・アルバムよりもギター・ロック然とした佇まいになっている。

Momentary Masters [帯解説・歌詞対訳 / 国内盤] (MGNF1031)

Momentary Masters [帯解説・歌詞対訳 / 国内盤] (MGNF1031)

 


ALBERT HAMMOND JR. - CAUGHT BY MY SHADOW (Official Music Video)


10. Ash - Kablammo!
 イギリスのロック・バンド、アッシュの8年ぶりとなった6thアルバム。デビューが10代中盤と早く、キャリア的には中堅・ベテランといって差し支えない年齢に達しているが、ロックな曲もバラードも相変わらず甘酸っぱい青春サウンドに溢れていて、このメロディのためだけに8年待った甲斐があると思わせてくれる。このバンドが背伸びした若作りもせず、一方で歳相応に枯れることもなく瑞々しさを湛えているのはもはや奇跡的な輝きとさえ言える。

KABLAMMO!

KABLAMMO!

 


ASH - Cocoon

11位〜20位

11. PINS - Wild Nights
12. The Chemical Brothers - Born In The Echoes
13. Muse - Drones
14. Brian Wilson - No Pier Pressure
15. Beach House - Thank Your Lucky Stars
16. Robin Guthrie & Mark Gardener - Universal Road
17. Johnny Marr - Adrenalin Baby - Johnny Marr Live
18. Mew - + - (Plus Minus)
19. Swervedriver - I Wasn't Born To Lose You
20. The Strypes - Little Victories

21位〜(順不同)

Belle And Sebastian - Girls In Peacetime Want To Dance
・Camera Shy - Camera Shy
・The Charlatans - Modern Nature
・Christopher Owens - Chrissybaby Forever
Coldplay - A Head Full Of Dreams
・Eric Kaz - Eric Kaz: 41年目の再会
・FFS - FFS
・Flyying Colours - Fcepx2
・Grimes - Art Angels
・Here We Go Magic - Be Small
・Housse de Racket - The Tourist
・Hurricane #1 - Find What You Love And Let It Kill You
Julia Holter - Have You In My Wilderness
The Libertines - Anthems For Doomed Youth
・Lusts - Illuminations
・Martin Courtney - Many Moons
・Mika - No Place In Heaven
Neon Indian - Vega Intl. Night School
・No Joy - More Faithful
・Nothing But Thieves - Nothing But Thieves
・Of Monsters And Men - Beneath The Skin
Owl City - Mobile Orchestra
Passion Pit - Kindred
・Peace - Happy People
・Ringo Deathstarr - Pure Mood
・Rumer - B Sides & Rarities
・San Cisco - Gracetown
・Seapony - A Vision
・Smallpools - Lovetap!
・Summer Twins - Limbo
・Toro Y Moi - What For?
・The View - Ropewalk
・Westkust - Last Forever
・Wolf Alice - My Love Is Cool

 

文化系のためのヒップホップ入門 (いりぐちアルテス002)

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キッチン (角川文庫)

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肥大化した観客の思い出と対峙するーー『STAND BY ME ドラえもん』

STAND BY ME ドラえもん
監督:八木竜一、山崎貴
2014年作品 / 95分 配給:東宝


映画『STAND BY ME ドラえもん』予告編 - YouTube

(※ネタバレ注意)

 産声を上げてから40年以上の月日が経過してもなお、当代の子どもたちに愛され続け、かつTVアニメ、映画、キャラクターグッズといったビジネスの第一線に鎮座する作品、と聞くと寡聞にして聞いたことがないが、少なくとも『ドラえもん』はその好例といって差し支えないだろう*1。現在公開中の3DCG映画『STAND BY ME ドラえもん』は、8月8日の公開から10日目にして動員数244万人、興行収入32.7億円を記録し、世界21か国での公開も決まった*2というのだから、大ヒットといって間違いないようだ。

 加えて、1980年公開の『ドラえもん のび太の恐竜』(監督:福冨博)以来続いてきた恒例の春休み映画の枠を飛び越え、久々の夏休み映画*3として、初の3DCG映画として、そして公式に「子ども経験者」(すなわち大人)に向けられた作品としても大変興味深い。監督は『ジュブナイル』、『ALWAYS 三丁目の夕日』で知られる山崎貴(八木竜一との共同監督)。これが『ドラえもん』の歴史に刻まれる映画になるだろうと期待に胸をふくらませた老若男女のドラえもんファンも多かっただろうし、主に監督の過去作を引き合いに、既に公開前からその出来を不安視する声も多く漏れ聞こえてきた。私自身もファン歴20年に満たない藤子不二雄ファンかつドラえもんファンの端くれとして、期待半分、不安半分の心境で、公開から数日後に劇場へ足を運んだ。

 『STAND BY ME ドラえもん』が、その興行実績に相応しい映画になっていたかといえば、首を傾げたくなる部分が多くあるのは確かである。しかしながら、主にネット上で、一部の映画ファンや『ドラえもん』に親しんできた世代からの憎悪にも似た声が噴出する中、そうした声に首肯したいか、といわれればそうではない。本作は『ドラえもん』の原作の、しかも短編から7つのエピソードを選び、それを90分強の長編映画として仕立て上げている。むしろ、原作の”再構築”作品として、ぜひともリアルタイムで観られて欲しいと思う。

 ”再構築”の対象となった原作の短編は、「未来の国からはるばると」(てんとう虫コミックス第1巻)、「たまごの中のしずちゃん」(同37巻)、「しずちゃんさようなら」(同32巻)、「雪山のロマンス」(同20巻)、「のび太結婚前夜」(同25巻)、「さようなら、ドラえもん」(同6巻)、「帰ってきたドラえもん」(同7巻)の7つ。映画では、およそ上に挙げた順に従って物語が展開していくことになる。ところで、公開前に漏れ聞こえてきたファンの声というのは、私が見た限りでは原作の大幅な改変に対する危惧であるとか、『ドラえもん』に似つかわしくないオリジナルエピソードで映画が作られることへの不安視だったように記憶している。果たして、公開された映画で展開されるのは、個々のエピソードを抽出してみれば、後述する「雪山のロマンス」を除き、大枠において原作に忠実といっても差し支えないものであった。台詞にも、原作からのそのままの引用が多く見られるほどだ。個々のエピソード自体はよく知られており、『ドラえもん』の短編でも特に名作といわれるものばかりとあって、多分に説明過多なところは鼻につくものの、物語を観客の記憶(思い出)に委ねることができる、という意味では成功しているとすらいえる。

 時代は『ALWAYS 三丁目の夕日』にも似た70年代前半の日本。ここに、22世紀の日本から、ドラえもんのび太を幸せにするために(嫌々ながらも)未来からやって来る。映画内でのドラえもんのび太を幸せにしなければならないという目的が課せられており、その目的を達成したら直ちに未来へ帰還しなければならないというのだ。ここで語られる幸せとはのび太としずかちゃんの結婚のこと。この目的を確実に達成させるために、セワシのび太の孫の孫)は「成し遂げプログラム」という装置をドラえもんにセットし、半ば強制的にドラえもんのび太の共同生活をスタートさせる。

 この時点で既に違和感を示す向きがあるかもしれない。私自身も「成し遂げプログラム」なるギミックが、『ドラえもん』という作品を”道徳的に健全な”方向へ一元化してしまう政治的な思惑への危惧をつぶやいていたりもする*4。事実、公開後にあちらこちらで聞こえてくる本作に対する議論の多くが、この「成し遂げプログラム」への言及で占められているようだ。ただ、この「成し遂げプログラム」が、そんな政治的な思惑とはかけ離れた単なる作劇上のギミックに過ぎないことは映画を観れば明らか*5だし、一方で、原作の7つの短編を繋ぎ合わせ、強引にも一本のストーリーラインに乗せるための仕掛け以上の効果を映画内にもたらしたかといえばそうでもないと感じる。もちろん、ファンとしては、ドラえもんの存在理由にも関わるような設定の改変への違和感は声を大にして表明したいところだが、このギミックが現在放送中のTVアニメにまで波及するわけでもなく、この映画のみの独自解釈として割り切るのも悪くはない。

 さて、映画では原作の短編を映像化するにあたり、時系列の大幅な組換えが行われている。選ばれた7つの短編を原作の発表順に並べたのが下表である。

サブタイトル 映画の時系列 初出 収録巻
未来の国からはるばると 1 『小学四年生』1970年1月号 1巻
さようなら、ドラえもん 6 『小学三年生』1974年3月号 6巻
帰ってきたドラえもん 7 『小学四年生』1974年4月号 7巻
雪山のロマンス 4 『小学六年生』1978年10月号 20巻
しずちゃんさようなら 3 『小学六年生』1980年11月号 32巻
のび太結婚前夜 5 『小学六年生』1981年8月号 25巻
たまごの中のしずちゃん 2 『小学四年生』1985年1月号 37巻


 ここで、映画のストーリーラインを貫くのび太としずかちゃんの結婚という「のび太の幸せ」が、原作のどの時点で明示されたのかが重要となる。よく知られたように、『ドラえもん』の長期にわたる連載史において、のび太としずかちゃんの結婚は連載開始から約2年後という早期に”ほぼ”確定している。上表に従えば、「未来の国からはるばると」と「さようなら、ドラえもん」の間に発表された、「のび太のおよめさん」(初出:『小学4年生』1972年2月号)がそれである。コミックスでは第6巻の最終話「さようなら、ドラえもん」の直前に配置*6されていることからも分かるとおり、『ドラえもん』という作品における一つの節目となったエピソードだ。

 もう一点、重要な人物がいる。出木杉である。映画では序盤からのび太のライバルとしてさも当たり前のように登場しているが、彼も連載当初から存在していたキャラクターではない。出木杉は『ドラえもん』の連載開始から実に9年後、「ドラえもんとドラミちゃん」*7というエピソードで初登場する。出木杉は、ほぼ確約されたかに見えたのび太の未来に揺さぶりをかけるために、当初から明確な目的をもって生み出されたキャラクターであり、『ドラえもん』においては「出木杉以前/以後」という点で、のび太の未来、そして幸せを再考させるためのキーマンとなっていく*8

 映画では『漂流教室』を下敷きにしたと思われる大幅なアレンジ*9が施された「雪山のロマンス」だが、このエピソードは出木杉の登場前に描かれた作品であることに留意する必要がある。映画では、「雪山のロマンス」におけるのび太の活躍をもってのび太としずかちゃんの結婚という未来が示され、「のび太結婚前夜」、そしてドラえもんの帰還へと接続する。だが、本来「雪山のロマンス」で示されたのび太としずかちゃんの結婚理由*10のび太自身も情けないと感じる唾棄すべき未来であった。結婚理由それ自体は映画でも大幅な改変はないだけに、直後に展開する「のび太結婚前夜」の立ち位置があやふやなものになってしまっている。周知のとおり、「のび太結婚前夜」は出木杉ジャイアンスネ夫と肩を並べてのび太とともに酒を酌み交わす場面で知られる。映画ではジャイ子の将来*11に加えて出木杉がしずかちゃんに振られたことが明確に示される*12が、果たして「雪山のロマンス」の未来をドラえもんが未来に帰還するに値する映画内の「正史」として遇して良いものかという疑念が生じてしまうのだ。

 つまるところ、のび太としずかちゃんの結婚という未来と、出木杉が登場するエピソードを原作の時系列と上手くマッチングさせなかったことが、一見、一貫性を保っているように見える映画のストーリーを継ぎ接ぎのような印象にしてしまっている。当然ながら、『ドラえもん』の連載期間は四半世紀にも及び、その間にキャラクターの性格や人間関係にもゆるやかな変化が生じている。映画内において、ドラえもんのび太、しずかちゃん、ジャイアンスネ夫と言ったキャラクターの性格に一貫性がなく、キャラクター同士の交流も淡白になってしまっているのも褒められたことではないように感じる。おそらく、監督側には「泣かせよう」といった意図はあまりなく、原作をロジカルに処理しようと試みた結果なのであろうが、原作の個々のエピソードは映画化に耐えうるクオリティになっていたものの、これらのエピソードを有機的に接続する試みは今一歩だったと思わざるを得ない。

 ただ、我が意を得たりという気分にさせてくれた部分もある。山崎監督が藤子不二雄ファンクラブ「ネオ・ユートピア」のインタビューで答えているように、「さようなら、ドラえもん」におけるドラえもんとの別離の場面について、(同じ視点での)ドラえもんのび太のそばにいるコマといないコマというたった2コマで描かれていることを高く評価している*13。私も「さようなら、ドラえもん」のみならず、その2コマには特別な思い入れがあるので、映画でも原作同様、同ポジションからの2カットで表現されていることには喜びを感じた。これまでのTVアニメ化及び映画化の例では、ドラえもんが泣きながら机の引き出しに向かうなど、あまりスマートとはいえない手法が見られただけに、この場面の映像化は高く評価したい。

 3DCG映画という点では、ピクサーをはじめとする現代ハリウッド映画への目配せというよりはコンプレックス*14の方が目立ち、また3D鑑賞の効果もあったとも思えず、特筆すべき点はないように思える。なお、そもそもにおいてその出自がロボットであり、シンプルな点と線で構成されているドラえもんについては、3DCGで表現されることにより彼のロボットらしさを際立たせる効果があった。一方で、整理された画面を旨とし、不要な線が漫画内に入ることを好まなかったとされる藤子・F・不二雄先生の美学からいえば、人間キャラクターの、特に毛髪や陰影の質感などは観る者に不気味の谷現象のような違和感を覚えさせてしまったのではないか。

 タケコプターで空を舞うシーンをいかに表現するかという点も、『ドラえもん』の映像化においてはよく引き合いに出される。映画では、ドラえもんとの出会い、そして初めてタケコプターで飛翔するシーンが夜に変更されている。IMAXを除けば、3D映画は2Dよりも画面が暗くなるのが一般的であり、ここは夜にする必然性がないように思える。また、のび太タケコプターで空中を暴走する活劇まがいのシーンは、一見するとアトラクティブではあるものの、私が個人的に重視しているタケコプターの浮遊感があまり感じられず、好ましいとはいえないものであった。浮遊感という点では、『ドラえもん のび太の恐竜2006』(2006/監督:渡辺歩)や、『ドラえもん のび太の人魚大海戦』(2010/監督:楠葉宏三)のほうがよほど良い仕事をしている。

 キャッチコピーの力は良くも悪くも偉大なのだろう。この映画の「いっしょに、ドラ泣きしません?」というフレーズは、「泣いた、感動した」という声とともに、絶大なる拒否反応を伴って迎えられた。確かに、涙とは往々にして偶発的なものであり、はなから観客の落涙を当てにしているかのようなこのキャッチコピーに対する違和感には同意したいところである。しかしながら、前述したように、この映画が観客を泣かせようとの明白な作為をもって作られたかと問われれば首をひねってしまう。むしろ、この映画は原作をドライに、悪くいえばビジネスライクに再構築しようと試みられている。『ドラえもん』に対する愛が人一倍であるがゆえに、それが首尾よく感動作に仕上がる*15こともあれば、自身の思惑と激突して見るも無残な作品になってしまう*16こともある渡辺歩の監督作品とは対極に近いといっていい。

 『ドラえもん』はその誕生から40年以上にもなり、連載開始当初に小学生だった読者の中には還暦を迎える者も出始めている。その意味で、今もなおゴールデンタイムにTVアニメがレギュラー放送され、毎年春休みには新作映画が公開されるとともに、新刊本やキャラクターグッズが作られているという現状は奇跡的ともいっていいのではないか。さらに、今夏には(その国民性とは相容れないといわれてきた)アメリカ合衆国での放送も決まり*17、概ね好評をもって受け容れられているという。

 このように、2005年の声優交代から首をもたげてきた、それぞれの「ドラえもん観」が、世代を超えてぶつかり合うところまで来ている、という点で、『STAND BY ME ドラえもん』は大変に興味深い映画である。冒頭でも述べたように、この映画は恒例の春休み映画以上の大ヒットを記録しているというのだから、普段ドラえもんとあまり親しく接していない層にも観られているということになる。

 歯がゆい点は多々指摘してきたものの、この映画は藤子ファンやドラえもんファンがシュプレヒコールを上げなければならないほど排除すべき映画ではない。その処理の仕方に甘さはあるものの、元が藤子・F・不二雄先生による特に優れた作品群であることが功を奏し、その映像化に際しても一定の水準をクリアしている。少なくとも、とりあえず山崎貴監督を悪しざまに罵っておけば通ぶれる、というような一部の映画ファンの風潮には与したくはないし、この映画の大ヒットに水を差すこともこの文章の本意ではない。むしろ、リアルタイムでドラえもんの3DCG映画化に立ち会えたという喜びを、ひとまずは噛みしめることにしたい。

 ところで、山崎監督と『ドラえもん』との縁は、監督の代表作の一つである『ジュブナイル』(2000)から始まっており、映画化に際しては藤子プロに許諾を取り、クレジットにも藤子・F・不二雄先生の名を入れている*18。だが、そもそも『ジュブナイル』は、かつてチェーンメールで広がり、未だに同人誌という形で蒸し返され続けている『ドラえもん』の偽の最終回を元に作られたものだった、というのも実に数奇ではあるのだが。

【公式サイト】
映画「STAND BY ME ドラえもん」公式サイト

ドラえもん (1) (てんとう虫コミックス)

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ジュブナイル [DVD]

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*1:ミッキーマウスは例外としても。ただ、かのミッキーですら映画化は『アナと雪の女王』の併映短編作品である『ミッキーのミニー救出大作戦』で18年ぶりにスクリーンに姿を現すまで待たなければならなかった。

*2:大ヒット中3DCG版「STAND BY ME ドラえもん」世界21の国と地域で配給決定! : 映画ニュース - 映画.com

*3:ドラえもん ぼく、桃太郎のなんなのさ』(1981/監督:神田武幸)以来

*4:http://twitter.com/Rainyblue/status/417512106133422080

*5:この記事を読む限り、製作陣に政治的な意図なんてものはなさそうだ。/「すてきな未来が来るんだぜ」と言う 映画「STAND BY ME ドラえもん」 山崎貴、八木竜一共同監督インタビュー (1/5ページ) - SankeiBiz(サンケイビズ)

*6:ドラえもん』のてんとう虫コミックス第1巻〜第45巻は藤子・F・不二雄先生の自選集という形を採っており、各話の配置も発表順とは限らない。また、各巻の最終話には感動作や大作が置かれることが多い。

*7:てんとう虫コミックスドラえもん プラス』第4巻収録/初出:『コロコロコミック』1979年9月号

*8:このあたりの事情は、小学館ドラえもんルーム編『ド・ラ・カルト〜ドラえもん通の本〜』(小学館文庫)に詳しい。

*9:後述するインタビュー記事において、山崎監督が『漂流教室』のファンであり、また、藤子・F・不二雄先生のSF短編『宇宙船製造法』と『恋人製造法』のファンであることが明かされている。/山崎貴インタビュー

*10:そばについててあげないと、危なくて見てられないから

*11:漫画家

*12:原作では出木杉がしずかちゃんに求婚したかどうかは定かではない。

*13:山崎貴インタビュー/映画のパンフレットでも同様の言及あり。

*14:15年後とは思えない未来描写、TOYOTAPanasonicといったスポンサーの商標を映画内に導入すること、目まぐるしいまでの視点の移動など。

*15:『ぼくの生まれた日』(2002)はその風景描写とともに名作といっていい。

*16:ドラえもん のび太と緑の巨人伝』(2008)

*17:THE PAGE(ザ・ページ) | 気になるニュースをわかりやすく

*18:山崎貴インタビュー

ポール・マッカートニーがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!

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 2013年11月21日、ポール・マッカートニー東京ドーム公演の最終日に行ってきた。

 多くのメディアで報道されているように「ビートルズの曲を多数演奏する」と聞くと、既に一線を退いた人のような印象を受けてしまうが、そこはポール、かつてビートルズやウイングスで活躍したロック・レジェンドによる懐メロ大会なんてことは全くなく、71歳のロッカーによる現役感漂うライブがそこにはあった。

 ポールとバンドメンバーがステージ上に姿を現し、耳慣れたイントロから「Eight Days A Week」の歌い出しが聴こえてくると、思わず目頭が熱くなる。ヘフナーのバイオリンベースをはじめ多彩な楽器を操り、茶目っ気たっぷりな仕草を見せながらステージ上を縦横無尽に動き回るその姿はまさに、天性のエンターテイナーそのもの。

 「次は、ジョンのためです」と捧げた「Here Today」や、ジョンのように歌ってみせたジョン作の「Being For The Benefit Of Mr. Kite!」、もはや定番となっているジョージ作の「Something」(最近は前半ウクレレの弾き語り、後半バンドアレンジになっているのがまた感涙もの)などが曲目に組み込まれているように、この人は亡きメンバーの分まで背負って現役で在り続けることを宿命づけられているとすら思えてくる。

 ヒット曲、有名曲ばかりの彼のこと、すべての人が満足するセットリストは極めて難しいものだが、それでも「Blackbird」の弾き語りは心に沁み渡り、「Hey Jude」では会場全体が一体となって合唱に参加し、「Live And Let Die」のど派手な爆発演出を目の当たりにし、そして大好きな「Another Day」まで歌ってくれて、もう言うことはなかった。

 アンコールの最後に「また会いましょう。元気でね!」と日本語でメッセージを発し、颯爽とステージを去っていくポール。これからの活躍に期待しつつ、再び彼に会える日を楽しみに待つことにしたい。


《セットリスト》
01. Eight Days A Week
02. Save Us
03. All My Loving
04. Listen To What The Man Said
05. Let Me Roll It
06. Paperback Writer
07. My Valentine
08. Nineteen Hundred And Eighty-Five
09. The Long And Winding Road
10. Maybe I’m Amazed
11. Things We Said Today
12. We Can Work It Out
13. Another Day
14. And I Love Her
15. Blackbird
16. Here Today
17. New
18. Queenie Eye
19. Lady Madonna
20. All Together Now
21. Lovely Rita
22. Everybody Out There
23. Eleanor Rigby
24. Being For The Benefit Of Mr. Kite!
25. Something
26. Ob-La-Di, Ob-La-Da
27. Band On The Run
28. Back In The U.S.S.R.
29. Let It Be
30. Live And Let Die
31. Hey Jude
―――――Encore 1―――――
32. Day Tripper
33. Hi, Hi, Hi
34. Get Back
―――――Encore 2―――――
35. Yesterday
36. Helter Skelter
37. Golden Slumbers
38. Carry That Weight
39. The End


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